Yuta
Nakamura
京都を拠点に活動する中村裕太は、博士課程まで陶芸を学び、「民俗と建築にまつわる工芸」という視点から陶磁器やタイルの研究と制作を行っています。文献調査やフィールドワークを行う研究者の手法と、自らの手で造形物を生み出すアーティストの手法を柔軟に往還しながら、近代日本の工芸文化を独自の視点から紐解いていきます。
中村の《日本陶片地図》(2012–)は、日本各地で採集した陶片を名勝地の絵葉書や書物と組み合わせた作品のシリーズです。本作は、明治期に動物学者のエドワード・S・モースが日本各地の陶器を蒐集したという史実に着想を得たもので、中村もまた自らの手で拾い上げた小さな欠片から、その土地の文化や風習の在りようを一つの地図に描き出しています。
ギャラリー小柳での初個展「柳まつり小柳まつり」(2017)では、関東大震災後、急速に復興した銀座の都市空間とギャラリー小柳の前身である「陶舗小柳」の歴史を調査しました。当時銀座に立ち並んだ仮設の商店建築を椅子に見立て、商品や書物などの資料をガラスのケースに収めました。他方で、陶舗小柳に残されていた陶器や短冊は、中村が制作したタイル張りの棚に設えました。このように綿密なリサーチを丁寧かつ洒脱なインスタレーションに落とし込みました。
こうした生活文化への関心から、中村の眼差しは徐々に「物品」から「人物」へと移り変わります。2018年から始まった「アウト・オブ・民藝」は、デザイナーの軸原ヨウスケとの民藝運動の周縁を巡るリサーチ活動です。大正・昭和初期の民藝運動にまつわる人物のネットワークを調査し、その相関関係を浮かび上がらせます。また、そうした人物の中でも1933年に来日した建築家のブルーノ・タウトの足跡を継続的に調査しています。「第17回イスタンブール・ビエンナーレ」(2022)では、ドイツ、日本、トルコにまたがるタウトの工芸品制作の影響関係を大きな壁面に相関図として描き出しました。中村はそうした調査を通じて、工芸という領域の幅と厚みを拡張していくことを試みています。
さらに近年、中村は動物行動学への関心から「生物」に着目しています。美濃加茂市民ミュージアムでの「日本ラインの石、岐阜チョウの道」(2018)では、石やチョウが見ている世界を想像しながら木曽川の自然や暮らしを調査し、所蔵資料とともに川に見立てた展示室から森の中へと作品を配置していきました。また、ユアサエボシとの二人展「耽奇展覧」(2023)では、江戸後期に好事家たちが珍奇なものを持ち寄って品評していたことに着想を得て、近現代の耽奇なるものと生物学の書物に描かれた挿絵を掛け合わせた陶器作品を制作しました。
このように中村は「物品、人物、生物」へと関心の対象を移行させつつも、それらの要素を何度も接触させることで、作品を生み出して行きます。研究者としての分析的な姿勢と、アーティストとしての造形が共存する中村の実践は、史実と想像、論理と詩情の間を軽やかに往復し、新しい知のかたちを立ち上げます。
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これまでの展示に「第8回アジア・パシフィック・トリエンナーレ」(ギャラリー・オブ・モダン・アート、ブリスベン、2015)、「第20回シドニー・ビエンナーレ」(キャリッジワークス、2016)、「あいちトリエンナーレ2016」(愛知県美術館、2016)、「MAMリサーチ007:走泥社─現代陶芸のはじまりに」(森美術館、東京、2019)、「眼で聴き、耳で視る|中村裕太が手さぐる河井寬次郎」(京都国立近代美術館、2022)、「万物資生|中村裕太は、資生堂と を調合する」(資生堂ギャラリー、2022)、「第17回イスタンブール・ビエンナーレ」(バリン・ハン、2022)、「チョウの軌跡|長谷川三郎のイリュージョン」(京都国立近代美術館、2023)など。著書に、軸原ヨウスケとの共著『アウト・オブ・民藝』がある。
BIOGRAPHY
1983東京都生まれ
2011京都精華大学 博士後期課程修了 博士(芸術)
2016文化庁新進芸術家海外研修員(短期)
現在京都府在住/京都精華大学芸術学部准教授
主な展覧会
2025「スケッチーズ|八瀬の石黒さん家から見た世界」京都精華大学ギャラリーTerra-S(京都)
2024「Ginza Curator’s Room #010 月ニトハルル」思文閣銀座(東京)
「アウト・オブ・民藝|『民』から芋づる編 MINGEIのB面!」生活工房ギャラリー(東京)(軸原ヨウスケ+中村裕太)
「ONE SINGLE BOOK」ギャラリー小柳(東京)
2023「河井寬次郎|寬次郎の魅力は何ですか」豊田市民芸館(愛知)
「チョウの軌跡|長谷川三郎のイリュージョン」京都国立近代美術館
「中村裕太|ユアサエボシ 耽奇展覧」ギャラリー小柳(東京)
「赤瀬川原平写真展 日常に散らばった芸術の微粒子」SCAI PIRAMIDE(東京)
2022「第17回イスタンブール・ビエンナーレ」バリンハン、イスタンブール(トルコ)
「東北へのまなざし1930-1945」岩手県立美術館/福島県立美術館/東京ステーションギャラリー(軸原ヨウスケ+中村裕太)
「眼で聴き、耳で視る|中村裕太が手さぐる河井寬次郎」京都国立近代美術館
「万物資生|中村裕太は、資生堂と を調合する」資生堂ギャラリー(東京)
2021「『新しい成長』の提起」東京藝術大学大学美術館 本館
「丸い柿、干した柿」高松市美術館(香川)
「タイルとホコラとツーリズム season8」下京いきいき市民活動センター(京都)(谷本研+中村裕太)
「根の力」大阪日本民芸館(軸原ヨウスケ+中村裕太)
2020「ツボ_ノ_ナカ_ハ_ナンダロナ?」京都国立近代美術館
「アウト・オブ・民藝|秋田雪橇編 タウトと勝平」秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(軸原ヨウスケ+中村裕太)
2019「やんばるアートフェスティバル2019-2020」大宜味村立旧塩屋小学校(沖縄)(谷本研+中村裕太)
「in number, new world / 四海の数」芦屋市立美術博物館(兵庫)
「表現の生態系 世界との関係をつくりかえる」アーツ前橋(群馬)
「タイルとホコラとツーリズムseason6」広島市現代美術館(谷本研+中村裕太)
「MAMリサーチ007:走泥社―現代陶芸のはじまりに」森美術館(東京)
「藤井達吉の家庭手芸のすすめ」ノムラテーラー(京都)(APP ARTS STUDIO)
2018「石黒宗麿と八瀬陶窯 ―五〇年目の窯出し―」ギャラリーフロール(京都)
「日本ラインの石、岐阜チョウの道」美濃加茂市民ミュージアム(岐阜)
「タイルとホコラとツーリズム season5 《 山へ、川へ。》」ギャラリーパルク(京都)(谷本研+中村裕太)
「アスピレーションズ―8つの扉」京都精華大学ギャラリーフロール(京都)
「アウト・オブ・民藝」誠光社(京都)(軸原ヨウスケ+中村裕太)
「第20回 DOMANI・明日展」国立新美術館(東京)
2017「柳まつり小柳まつり」ギャラリー小柳(東京)
「アジア回廊 現代美術展」京都芸術センター(京都)(谷本研+中村裕太)
「タイル植物園 熱帯植物の観察術」名古屋市東山植物園(愛知)
2016「瀬戸内国際芸術祭2016」高見島(香川)(APP ARTS STUDIO)
「タイルとホコラとツーリズム season3 《白川道中膝栗毛》」ギャラリーパルク(京都)(谷本研+中村裕太)
「あいちトリエンナーレ2016」愛知県美術館(愛知)
「第20回シドニー・ビエンナーレ」キャリッジワークス、シドニー(オーストラリア)
2015「第8回アジア・パシフィック・トリエンナーレ」ギャラリー・オブ・モダン・アート、ブリスベン(オーストラリア)
「タイルとホコラとツーリズム season2 《こちら地蔵本準備室》」ギャラリーパルク(京都)(谷本研+中村裕太)
「知らない都市 Inside Out」京都精華大学ギャラリーフロール(京都)
2014「タイルとホコラとツーリズム」ギャラリーパルク(京都)
2013「六本木クロッシング2013展 アウト・オブ・ダウト―来たるべき風景のために」森美術館(東京)
















