
トーマス・ルフ|Substrate / 基層
2002年11月11日(月)- 12月6日(金)
11:00–19:00
日 / 祝日休廊
ギャラリー小柳ではメインギャラリーに新作:「Substrate / 基層」(大作)を4点、バックルームでは「ミース・ファン・デル・ローエ」シリーズより29×21.5cm作品3点、130×170cm作品1点を展示いたします。
同時期に開催されます、エモーショナル・サイト(11月16日- 24日 佐賀町食糧ビル)にも「ミース・ファン・デル・ローエ」のシリーズより29×21.5cm作品5点、130×170cm作品1点、計6点の展示を行います。
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トーマス・ルフが2001年半ばから取組んでいる「Substrate=基層」は、さまざまな色調が流れ込み、押し合い、重なり合っている画像からなる。視線は、色の輪郭が溶け、相互に融解してしまった色彩層の間をさまようことになる。すでに眼にした現実を示唆するもの、あるいは眼前の画像世界などは消え去り、色彩そのものの表面へと押し戻される。しかしながら、これは素材とか、巧みなテクスチャーによる質感として認識すべきものではない。よくよく見つめると、さまざまな色の極小の点格子から作られているのがわかる。一見、絵画性や空間性を示唆するかのような像が、実はだまし絵でありコンピューターによるコンポジションだということが明らかになる。
このシリーズの出発点となったのは、先行したシリーズ:「nudes」と「l.m.v.d.r」(Ludwig Mies van der Rohe)の制作において、トーマス・ルフが得た体験と知識であった。「l.m.v.d.r」シリーズで、彼は既存の写真や自作写真に多種のソフトフォーカス・フィルターをかけ、色彩値や色彩飽和度を変化させ、部分的な修正をほどこした。さらに、写真の反転や重ねこみの可能性にも着手した。その作業の際、写真映像を何枚も重ねていくと、ある時点までで限界にいたり、それを超すと茶色・灰色で定義不能かつ無構造のかたまりになってしまう事態に立ちいたった。しかし彼は、画像それぞれの内部構造を失うことなくさらに融合を進めたかったため、インターネットで取り込んだ日本のマンガやアニメを用いることにした。それらには正確で厳密な色彩の稜線があるので、画像を重ねたり、交錯させても、色彩面それぞれの色彩強度や構造などが失われることはなかったからだ。それにより、画像のリアリティは消滅しているのに、独特かつ明瞭な新しい言語の画像を展開することが可能となった。それらは「マンガ家」のイマジネーションのみを源とする、徹底的にバーチャルな産物となり、また単に電子的に扱われた視覚的刺激に過ぎないものとなった。
「Substrate」はそうして、ビジュアルな「無」に到達する。すなわち画像と情報は非常に強烈に重なり合い、最終的に無意味で空虚な画像だけが残ったのだ。これが、「Substrate = 基層」であり、一見特徴がないモノの本質がその特徴を担うかのように映る。ルフはこのシリーズにより、あらゆる既存の写真・画像の溶解作業の当面の終着点まで到達したといえるだろう。
Valeria Liebermann (評論家), 2002