Yoshihiro
Suda

               

須田悦弘は、卓越した彫刻技術で壮麗な花々から名もなき雑草まで、本物と見紛うような精緻な木彫を作り、それらを空間に配するインスタレーションで知られます。朴の木を素材に岩絵具や顔料で着彩された実寸大の作品は、部屋の片隅や、壁や床のわずかな隙間にそっと置かれ、見る者はその思わぬ発見の驚きと喜びの先に、空間全体を新たな視点で認識するという、思考の転換を体験します。

1993年、須田は《銀座雑草論》と題し、内部に金箔を貼った自作の移動式空間に雑草の木彫を展示し、銀座のパーキングエリアを巡りました。ハプニング的な状況と作品の親密な佇まいが異質な調和を生み、鮮烈なデビューとなりました。翌年の《東京インスタレイシヨン》では、人が一人通れるほどの幅の空間を作り、その奥に朴の葉と実の彫刻を設置。作品とダイレクトに対峙する空間は、濃密な鑑賞体験を通して見る者に深い思索を促すものでした。

こうした自作の空間での展示に対し、ギャラリー小柳における《間》(1997)は、本物の沙羅双樹の鉢植えとともに、そこからこぼれ落ちたように木彫の花々を床に散りばめるという試みでした。原美術館ではかつて暗室であった空間に、剥き出しの配管からテッセンや椿が咲くインスタレーション《此レハ飲水ニ非ズ》(2001–21)を、ドイツのニュルンベルク新美術館では白い螺旋階段の壁に沿って真紅のバラと花弁(2001)を恒久展示しました。また、ベネッセアートサイト直島では、壁面の溝や通路に置かれた《雑草》(2002)や《バラ 公衆電話跡》(2006–26)が心地よい視線の彷徨いを招き、見慣れた空間を異化させることで鑑賞者の意識を静かに揺さぶりました。同じく直島に点在する家屋などを作品化する「家プロジェクト」の一環として、《碁会所》(2006)に椿を展示した際には、庭の本物の五色椿との対比を通してリアルとフェイクの共鳴と錯綜を喚起させました。

一方、東京都庭園美術館の建築を解き明かす「旧朝香宮邸を読み解く A to Z」展(2024)では、タイルの割れ目から生えた雑草や床にはらりと落ちた枯れ葉など、須田が生み出す儚き命の存在が、見過ごされがちな建築のディテールに対して鋭敏な意識を芽生えさせました。

また、須田は自作を古美術と同一空間に展示するほか、仏像などの失われた部分を彫刻し、彩色する補作も行っています。大倉集古館の「拈華微笑」展(2000)では、国宝《普賢菩薩騎象像》(平安時代)の展示ケースに一本の雑草を忍ばせ、杉本博司の依頼により初めて補作を手がけた《春日若宮神鹿像》(鎌倉時代、小田原文化財団蔵)は、ギャラリー小柳の「補作と模作の模索」展(2023)でも展示されました。文字通り時空を繋ぐこうした古美術との邂逅は、古典的手法と現代的視点を併せ持つ須田の創作により一層豊かな展開をもたらしています。

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これまでの主な個展に原美術館(東京、1999)、アート・インスティテュート・オブ・シカゴ(2003)、パレ・ド・トーキョー・パリ(2004)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川、2006)、国立国際美術館(大阪、2006)、ホノルル現代美術館(2009)、千葉市美術館(2012)、渋谷区立松濤美術館(東京、2024)、ミュンヘン州立版画素描館(2025)など。作品は国内外の主要美術館に収蔵されている。

BIOGRAPHY

1969山梨県生まれ

1992多摩美術大学 美術学部 グラフィックデザイン学科卒業

1994-2000スタジオ食堂

現在東京都在住

個展

2025「Garten Eden」ミュンヘン州立版画素描館(ドイツ)
Sadie Coles HQ、ロンドン

2024渋谷区立松濤美術館(東京)

2023「補作と模作の模索」ギャラリー小柳、ロンドンギャラリー白金(東京)

2018「ミテクレマチス」ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡)

2017Galería Elvira González、マドリード(スペイン)
「花|非花」毓繡美術館、南投(台湾)

2016107 S-chanf、エスシャンフ(スイス)
Galerie René Blouin、モントリオール(カナダ)

2015Loock Galerie、ベルリン(ドイツ)

2014Galería Elvira González、マドリード(スペイン)

2013Faggionato Fine Arts、ロンドン

2012千葉市美術館

2011The Manggha Centre of Japanese Art and Technology、クラクフ(ポーランド)

2010ギャラリー小柳(東京)

2009D’Amelio Terras、ニューヨーク
Asia Society Museum、ニューヨーク
Galerie René Blouin、モントリオール(カナダ)
The Contemporary Museum, Honolulu、ハワイ
「Camelia」Loock Galerie、ベルリン(ドイツ)

2008Galeria Fortes Vilaça/Galeria Leme、サンパウロ(ブラジル)
PKM Gallery、ソウル

2007ギャラリー小柳(東京)

2006丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川)
「三つの個展」国立国際美術館(大阪)
「Lotus of Wood」Chung King Project、ロサンゼルス

2004Palais de Tokyo、パリ
D’Amelio Terras、ニューヨーク

2003Galerie Wohnmaschine、ベルリン(ドイツ)
The Art Institute of Chicago、シカゴ

2002「水の流れ、水の重なり」アサヒビール大山崎山荘美術館(京都)
群馬県立近代美術館
Studio Guenzani、ミラノ(イタリア)

2001Entwistle Gallery、ロンドン

2000ON Gallery(大阪)
D’Amelio Terras、ニューヨーク
Galerie René Blouin、モントリオール(カナダ)

1999「ハラドキュメンツ6:須田悦弘 泰山木」原美術館(東京)
「One Hundred Encounters」Galerie Wohnmaschine、ベルリン(ドイツ)
「間」ギャラリー小柳(東京)

1998 「Tulip」Caisse des Dépôt et Consignations、パリ

1997「間」ギャラリー小柳(東京)
「Ma and Rose」Galerie Wohnmaschine、ベルリン(ドイツ)

1996 「東京インスタレイシヨン 3」ギャラリイK(東京)
「東京インスタレイシヨン 2 2/3」ギャラリー360°(東京)

1995「東京インスタレイシヨン 2」ギャラリイK(東京)

1994「東京インスタレイシヨン」大和パーキングエリア(東京)

1993「銀座雑草論」銀座1-4丁目パーキングメーター(東京)

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Text by Haruko Kohno