Ebosi Yuasa

               

千葉県生まれのユアサエボシは、憧れの画家たちと同じ時代に生きたいという欲求から、自らを「大正生まれの三流画家・ユアサヱボシ」として位置づけ、当時のシュルレアリスムの画風で絵画制作に取り組んでいます。「架空の設定で自分自身を隠すことが、一番自分のやりたいことをできる状態」と語るユアサは、現代美術の文脈から自らを解放し、作品を発表することで、時にユアサヱボシの年表を更新していきます。巧妙に作り上げたその小さな「嘘」を歴史の隙間に忍び込ませながら、美術の歴史や既存の価値観を攪乱し続けています。

現実のユアサエボシは、就職した金融系の会社がすぐに倒産したことを機に、美術に転向したという異色の経歴を持ちます。澁澤龍彦の著作を通じて知ったシュルレアリスムに傾倒したのちに、新聞から切り抜いたモチーフを小さな5センチ角の中でコラージュしていく手法を得ます。過去の情報の価値を問い直し、史実と創作の境界を揺さぶる思考は、その後の絵画制作にも受け継がれています。

架空のユアサヱボシの輪郭が定まるきっかけとなった《GHQ PORTRAITS》(2017)は、150枚の瓦に進駐軍の似顔絵を反復的に描いた作品です。瓦に描きたいという衝動に始まった制作だったものの、のちに進駐軍の似顔絵を描く文化が実際にあったという歴史的事実を得て、ヱボシの経歴が新たに肉付けされました。このようにユアサの作品には、描く欲求を優先させながら、架空の設定の中で軽やかに遊ぶ柔軟性が見てとれます。

《女性工員》(2016)は、不思議な機械室で作業に従事する女性を描いた作品で、ヱボシが師事したとされるシュルレアリスム画家、福沢一郎が描いた《寡婦と誘惑》に着想を得たものです。二重に表された女性の姿や、その手にある肉切れのような図面、背後で煙を上げる装置など、不条理な光景が時代がかった色合いで描かれています。この絵画がシュルレアリスムの正統な系譜にあるものなのか、美術史的評価からこぼれ落ちた歴史の敗者によるものなのか、定かではありません。不確かな物語を背景に、あり得たかもしれない画家の足跡が浮かび上るという特異なコンセプトや、時代を逆行するように具象絵画に取り組む姿勢が評価され、ユアサは2018年に絹谷幸二賞を受賞しています。

その他、ヱボシが銃後で敗戦を迎えた原体験を描いた大作《夢》(2021)や、50年代にアメリカで制作した抽象画シリーズ(2023)など、63歳で既に閉じられている虚構の人物史は次々と発表される作品によって今なお彩られています。そのたくらみに後世の人々が巻き込まれることを夢想しながら、ユアサエボシの過去と現在、虚構と現実を跨ぐ創作は続きます。

READ MORE READ LESS

これまでの展覧会に、「岡本太郎現代芸術賞」(川崎市岡本太郎美術館、神奈川、2017)、「シェル美術賞アーティストセレクション」(国立新美術館、東京、2018)、「奇想のモード:装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」(東京都庭園美術館、2022)、「高松コンテンポラリーアート・アニュアル ここに境界線はない。/?」(高松市美術館、香川、2022)、「Fukuzawa Re:birth 福沢一郎×平川恒太・ユアサエボシ・江上越」(富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館、群馬、2024)、「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」(国立西洋美術館、東京、2024)などがある。2025年には、東京都現代美術館で開催された「開館30周年記念 MOTコレクション マルチプル_セルフ・ポートレイト」にて特別展示を行った。2018年第10回絹谷幸二賞受賞。作品は、東京都現代美術館、金沢21世紀美術館(石川)、高松市美術館(香川)に収蔵されている。

BIOGRAPHY

1983千葉県生まれ

2005東洋大学 経済学部卒業後、商品先物取引会社に就職するも半年で倒産
一転して画家になる決心をする

2008東洋美術学校 絵画科卒業

現在千葉県在住

個展

2025「ユアサエボシ|でいかい」ギャラリー小柳(東京)

2024「生誕100年 ユアサヱボシ展」Yoshiaki Inoue Gallery(大阪)

2023「涯にて/ at the end」Yoshiaki Inoue Gallery(大阪)

2019「侵入するスペクトル」Akio Nagasawa Gallery Aoyama(東京)
「曲馬考」銀座 蔦屋書店 アートウォールギャラリー(東京)
「プラパゴンの馬」EUKARYOTE(東京)

2014「TWS-Emerging 2014 / News paper collage project」トーキョーワンダーサイト渋谷(東京)

2013GEISAI#19 ガブリエル・リッター賞「ユアサエボシ個展」Hidari Zingaro(東京)

 

グループ展

 

2025「開館30周年記念 MOTコレクション マルチプル_セルフ・ポートレイト」東京都現代美術館
「積層する時間:この世界を描くこと」金沢21世紀美術館

2024「日本国憲法展2024」無人島プロダクション/MISA SHIN GALLERY(東京)
「Fukuzawa Re:birth 福沢一郎×平川恒太・ユアサエボシ・江上越」富岡市立美術館・福沢一郎記念美術館(群馬)
「Gallery selection マーク・マンダース、トーマス・ルフ、杉本博司、ユアサエボシ」ギャラリー小柳(東京)
「Revealed—3つの個人コレクション—」横浜市民ギャラリーあざみ野
「ONE SINGLE BOOK」ギャラリー小柳(東京)
「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」国立西洋美術館(東京)

2023「奈良・町家の芸術祭 はならぁと 2023」こあ 宇陀松山エリア(奈良)
「中村裕太|ユアサエボシ 耽奇展覧」ギャラリー小柳(東京)
「やんばるアートフェスティバル2022−2023」大宜味村立旧塩屋小学校(沖縄)
「2022年度 コレクション展4:素材とあそぶ」高松市美術館

2022「Alter Ego」Noblesse Collection、ソウル
「Paprika」EACH MODERN、台北
「VOCA展2022:現代美術の展望—新しい平面の作家たち—」上野の森美術館(東京)
「高松コンテンポラリーアート・アニュアル vol. 10 ここに境界線はない。/?」高松市美術館
「ACT(The Artcomplex Center of Tokyo))Vol. 4 接近、動き出すイメージ」トーキョーアーツアンドスペース本郷(東京)
「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」東京都庭園美術館

2021「CADAN ROPPONGI presented by Audi」六本木ヒルズ Hills Café / Space(東京)
「still life 静物」ギャラリー小柳(東京)

2020「森-Deep Forest-」Yoshiaki Inoue Gallery(大阪)
「3331 ART FAIR 2020」3331 Arts Chiyoda(東京)

2019「買える!アートコレクター展」MEDEL GALLERY SHU(東京)
「I氏コレクション展 今どきアート2020 全て初めて」富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館(群馬)
「東京インディペンデント2019」東京藝術大学大学美術館 陳列館(東京)
「ザ・プレミアム平成ショー」THE blank GALLERY(東京)

2018「シェル美術賞アーティストセレクション2018」国立新美術館(東京)
「パープルーム大学附属ミュージアムのヘルスケア」常陸太田市郷土資料館 梅津会館(茨城)
「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2018」六甲山(兵庫)
「Multi shutter」EUKARYOTE(東京)
「バラックアンデパンダン」BARRAK(沖縄)

2017「ゲンビどこでも企画公募2017」広島市現代美術館
「ground under」セゾンアートギャラリー(東京)
「中之条ビエンナーレ2017」中之条町(群馬)
「第7回 新鋭作家展 二次審査プレゼンテーション展示公開」川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉)
「第20回 岡本太郎現代芸術賞展」川崎市岡本太郎美術館(神奈川)

2016「Independent TAGBOAT ART FES」ヒューリックホール(東京)

2015「シブヤのタマゴ さよなら区庁舎」渋谷区総合庁舎
「合同展」千葉市文化センター
「第11回 世界絵画大賞展」東京都美術館

2014「3331 千代田芸術祭2014 アンデパンダン展」3331 Arts Chiyoda(東京)

2013「シェル美術賞2013」国立新美術館(東京)
「GEISAI#19」都立商業貿易センター 台東館(東京)
「ASIAN AGE Ⅲ展」アートコンプレックスセンター(東京)
「第9回 世界絵画大賞展」東京都美術館
「TAGBOAT@Bunkamura」Bunkamura Gallery(東京)
「タグボートアワードin 台北」ArtSpace 金魚空間、台北
「トーキョーワンダーウォール公募2013 入選作品展」東京都現代美術館
「第8回 タグボートアワード」世田谷ものづくり学校(東京)

Download Biography Text by Haruko Kohno
Text by Haruko Kohno