Arisa
Kumagai
熊谷亜莉沙は、自身の複雑な生い立ちや抗い難い境遇に向き合い、そこにある矛盾や葛藤を表現する手段として絵画を制作してきました。極めてパーソナルな体験に基づきながらも、作品に通底する生と死、愛憎や貧富といった表裏一体の感情や在りようは、人間社会の縮図とも言える普遍的なテーマとして見る者の感情を強く揺さぶります。
熊谷は、バブル期に大阪に残る遊郭街の近くでイタリアのハイブランドを扱うブティックを営む家庭に生まれました。学生の頃から取り組む〈Leisure Class(有閑階級)〉は、その当時流行の商品であった高価なシルクシャツを身に纏う祖父を描いたシリーズです。光沢のある豪奢な柄物の衣服と、皺が深く刻まれた祖父の皮膚や丸まった背中は不思議なコントラストを織り成します。タイトルの「Leisure Class」とは、周囲の羨望を意識して誇示散財する人々を意味し、画面に表される鮮烈な色と光の明暗がこうした顕示欲求の背後にある体裁と内実のずれを照らし出すかのようです。
ギャラリー小柳での2019年の初個展で披露された《Single bed》(2018)は、透明色を塗り重ねた暗闇の背景に実物と見紛うリアリズムで花々を描いた一枚です。愛情よりも恐れが先立ち、疎遠になった父親の孤独な死に様に衝撃を受け、ベッドから独り、動けなくなった自身の経験に端を発する本作は、シングルベッドと同じ大きさの縦長のキャンバスに描かれています。熊谷が描く花々は、必ず誰かが誰かに捧げたもので、惜別から祝意までさまざまな感情を内包しますが、ここでは、母親が父親の最期に手向けた花々が不相応なほどに華やかに、そして冷たく画面を彩っています。それは、言葉では言い尽くせない両者の間の愛憎を色濃く反映したものなのかもしれません。一方、〈JORDAN(Old Kids Shoes)〉と題されたシリーズは、暴力的であった父親が次々と熊谷に買い与えたスニーカーを描いています。一方的に贈られるこだわりの品が歪んだ愛の形を示唆するも、その愛を拠り所としてしまう切実な感情がここでもまた巧みに表現されています。
近年、熊谷はカトリックの教会でさまざまな信仰の形や、罪や贖罪といった人間の根源的な行いと心理を学んでいます。その中で宗教と深く絡み合う美と権力、暴力と祈りなどに触れ、自身の家族像とも重なるこうした人間の諸相を絵画表現の中でより深く追求しています。宗教的な主題に初めて取り組んだ《she》(2022)は、熊谷の特徴である大胆にトリミングされた構図と陰影で、ニューヨークの教会で見た天使像の祈る手を描いた一枚です。「私はお前に生まれたかった」と題された個展(ギャラリー小柳)の際には、作品の傍らに熊谷自身が綴った詩が添えられました。想像力を喚起させる言葉や問いが鑑賞者の経験や記憶と交錯し、気づきや共感、ひいては自己開示やカタルシスを促す作用は、熊谷の創作の真髄だと言えるでしょう。
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主な受賞歴に、2013年シェル美術賞、2014年上野の森美術大賞展入選、2022年第一回MIMOCA EYE /ミモカアイ入選。これまでの展覧会に、「シェル美術賞2020 『シェル美術賞 アーティスト・セレクション 2020』」(国立新美術館、東京、2020)、「第⼀回 MIMOCA EYE / ミモカアイ」(丸⻲猪熊現代美術館、香川、2022)など。作品は、東京都現代美術館に収蔵されている。
BIOGRAPHY
1991大阪府生まれ
2013京都造形芸術大学 洋画コース卒業
2015京都造形芸術大学大学院 総合造形領域修了
現在大阪府在住
個展
2025「天国泥棒」ギャラリー小柳(東京)
2023「神はお許しになられるらしい」ギャラリー小柳(東京)
2022「私はお前に生まれたかった」ギャラリー小柳(東京)
2019「Single bed」ギャラリー小柳(東京)
2015「Leisure Class」Gallery Art Composition(東京)
2013「MAMA」atamatote 2-3-3(東京)
グループ展
2024「ハレの日に」SCÈNE(東京)
「ONE SINGLE BOOK」ギャラリー小柳(東京)
「東 京都 展 The Echoes of East Kyoto」WHAT CAFE(東京)
「Collection #08」rin art association(群馬)
「Observation」YUKIKO MIZUTANI(東京)
2023「MtK satellite Vol.3」MtK satellite(愛知)
2022「Under Current サテライト展」N&A Art SITE(東京)
「第1回 MIMOCA EYE/ミモカアイ」丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川)
「Under Current」Powerlong Museum、上海(中国)
「young okazaki vol.02」MtK Contemporary Art(京都)
2021「GROUP SHOW: 5 ARTISTS」KOSAKU KANECHIKA(東京)
2020「シェル美術賞 アーティスト・セレクション2020」国立新美術館(東京)
「Photographs」ギャラリー小柳(東京)
2017「Portrait」ギャラリー小柳(東京)
2016「ULTRA x ANTEROOM exhibition 2016」ホテルアンテルーム京都
「ARTOTHÈQUE SELECTION 2016」京都造形芸術大学
2015「スタジオハイデンバンオープンスタジオ」スタジオハイデンバン(京都)
「混沌から躍り出る星たち 2015」スパイラルガーデン(東京)
「京都造形芸術大学大学院修了展」京都造形芸術大学
2014「Politics Narcissism」ARTZONE(京都)
「熊谷亜莉沙 田中裕子 山﨑鈴子三人展」画廊くにまつ(東京/京都)
「第23回奨学生美術展」佐藤美術館(東京)
「名古屋芸術大学大学院 同時代表現研究[洋画]×京都造形芸術大学大学院 Pr PROJECTS 交流展」名古屋芸術大学(愛知)
「東京藝術大学大大学院 美術研究科 油画専攻 小林正人研究室×京都造形芸術大学大学院Pr PROJECTS交流展」Pr PROJECTS room(京都)
「SPURT2014」京都造形芸術大学
「上野の森美術大賞展」上野の森美術館(東京)
2013「シェル美術賞展2013」国立新美術館(東京)
「HOP2013」京都造形芸術大学
「PARADE」3F project room(京都)
「はじまりの部屋」康耀堂美術館(長野)
「京都造形芸術大学卒業制作展」京都造形芸術大学(京都)
2012「弘益国際美術祭」弘益大学校、ソウル(韓国)
「ワスレモノハナンデスカ 掌の珠玉」ギャラリーi(京都)
「学科優秀選抜展|めばえ」京都造形芸術大学(京都)
「増殖する自己と他者の血脈の響鳴」ARTZONE(京都)






















